現代史家:秦郁彦氏
橋下徹大阪市長が語った慰安婦をめぐる発言は、内外に波紋を巻き起こし、
その要旨はテレビや新聞などで大々的に報じられた。歴史家の観点から解説を加えてみたい。
(1)「軍自体が、日本政府自体が暴行・脅迫をして…
女性を拉致をしたというそういう事実は今のところ証拠で裏付けられていない」
(2)「当時慰安婦制度は世界各国の軍は持ってたんですよ」
(3)「なぜ日本のいわゆる従軍慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるのか」
『慰安婦と戦場の性』という研究書を刊行した筆者として、
(1)~(3)の捉え方は引用部分に限れば、大筋は正しいと思う。
ただし、歴史家は過去の史実を正確に復元するだけですむが、
政治家はそれを踏まえたうえでの具体的提言や主張を求められるし、
予期される内外の反響に対する戦略的、戦術的配慮も必要とすることは言うまでもない。
(1)は、女性たちを強制連行したか否かという争点で、橋下氏は安倍晋三内閣と同様に、
今のところ強制連行の証拠は見当たらないと控えめだが、
筆者は次のような理由から強制連行はなかったと断定したい。
第1に、この20年以上にわたり数多く紹介され裁判所でも陳述された彼女たちの「身の上話」で、
家族、隣人、友人など第三者の目撃証言が登場した例は皆無である。
たとえ、こそ泥レベルの微罪でも「被害者」の申し立てだけで有罪と判定する例はないはず。
次に戦中のソウルの新聞に「慰安婦至急大募集。月収300円以上、本人来談」
のような業者の募集広告が、いくつも発見されている事実を指摘したい。
日本兵の月給が10円前後の当時、この高給なら応募者は少なくなかったろうから
強制連行する必要はなかった。
事は朝鮮人男性のプライドに関わってくる。
しかも、警察官の7割以上を朝鮮人が占めていた朝鮮総督府が、
植民地統治の崩壊を招きかねないリスクを許容したとは思えない。
橋下氏の論点の(2)と(3)については、第二次大戦中ばかりではなく朝鮮戦争やベトナム戦争中も、
参戦諸国が慰安所ないし類似の施設を運営したのは、紛れもない事実だが、
ここでは、最近になって明るみに出た朝鮮戦争期における韓国軍の慰安婦事情を紹介しよう。
調査したのは、宋連玉編『軍隊と性暴力』の第7章を執筆した金貴玉氏(漢城大学教授)で、
韓国陸軍本部で1956年に刊行された『後方戦史(人事篇)』の記述から、
軍慰安所の存在を知ったという。それによると、陸軍本部が施設を設置した理由は、
軍人の士気昂揚、性欲抑制から来る欲求不満の解消、性病対策からだったとされる。
書類上は「第5種補給品」と呼ばれた4カ所、89人の慰安婦に対し、
52年だけで延べ20万4560回(1日当たり6・5回、時には20~30回)の
性サービスが「強要」されたことを示す実績統計表も付されている。
しかし、陸軍本部が関連史料の閲覧を禁じ、ようやく見つけた2人の元慰安婦も
「証言を拒み、涙と沈黙で答えるのみ」なので、金貴玉氏の調査は難航を極めたらしい。
メディアも沈黙し、進歩的男性たちからさえ「身内の恥をさらし、日本の極右の弁明材料にされる」
と警告されながらも、彼女はひるまなかった。
ソウルの日本大使館前で毎週水曜日に挙行される慰安婦デモに同行した学生たちは、
「日本を批判すると同時に、韓国人も歴史認識について反省しなければ」と発言するようになり、
「韓国軍性奴隷の問題を隠し続け、今でも反省の色を見せていない」韓国の国家権力を批判する。
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報道に惑わされることなく、大局的な観点から判断をしたい。
一番納得するのは「史実」これを冷静に並べていく。
思考や感情を入れずに。
韓国の若者にも新たな芽が出てきたことが嬉しい。